2025年3月22日土曜日

【第1回】協力店という構造はもはや限界 ― 住宅現場から突きつける“事実”




―連載:現場崩壊と再構築のはざまで―

ハウスメーカーの協力店という構造は、限界に達している。

これは感情論ではない。40年にわたり大工として現場に立ち、35年にわたり建築士として設計にも携わってきた私が、全国の現場で“実際に起きていること”を踏まえてお伝えする、揺るがぬ事実である。

かつては「信頼で結ばれた関係」だった協力店とハウスメーカー。だが今、その関係は支配と従属に変質し、現場は静かに崩壊しつつある。


■ 現場で今、何が起きているのか?

以下に紹介する5つの事例は、現場で実際に発生している“事実”である。
これを読めば、もはや「協力」という言葉が形だけであることは明らかだ。


【具体例①】単価の一方的な引き下げ要請

多くの協力業者が直面しているのが、「ハウスメーカー側からの工事単価の一方的な引き下げ」である。

例:某大手ハウスメーカーA社の事例
2023年以降、材料費・燃料費の高騰にもかかわらず、A社では協力業者に対して「単価の10%カット」を通達。背景には企業としてのコスト削減目標があったが、結果として小規模の協力店では赤字が常態化し、撤退を余儀なくされたケースも報告されている。


【具体例②】現場作業の無理な短納期化

例:関東圏の内装業者B社の証言(建築専門誌インタビューより)
「以前なら1週間かけていた作業を、今では3日で仕上げるよう求められる。しかも報酬は変わらない」
こうした短納期化が進む中、安全性や品質にも悪影響が出ている。人手不足の現場では職人の精神的疲弊も深刻で、若手の離職にも直結している。


【具体例③】下請法ギリギリの取引慣行

例:中部地方の電気設備業者C社のケース
「契約書を取り交わさずに仕事が始まり、後から『言った・言わない』のトラブルになることも多い」
下請法の対象にならないような巧妙な発注が横行しており、支払い遅延や未払いが問題化。法的措置に至らずとも、信用や経営へのダメージは計り知れない。


【具体例④】突然の取引打ち切りと専属契約の矛盾

例:九州の大工職人DさんのSNS投稿より(2024年)
「長年専属で仕事をしてきたのに、突然『仕事が減るから他を当たってくれ』と連絡が来た」
協力店側は他社との契約を制限されていたにもかかわらず、急な終了により仕事を失い、生活が一変した。専属契約に近い拘束がありながらも、保証は何もない現状がある。


【具体例⑤】若手職人の確保が困難に

例:北海道の左官業者E社の現場から
「低賃金と過酷な労働条件により、若手がまったく入ってこない。60代以上が大半で、先が見えない」
ハウスメーカー側が人材確保を協力店任せにしているため、技術継承が滞り、現場の力そのものが衰退している。


■ 協力店の崩壊は、業界全体の問題である

これらは一部の例ではない。私が直接見聞きしてきた“現場の事実”であり、今この瞬間も全国で同じことが起きている。

協力店は、単なる下請けではない。
図面だけでは成り立たない住宅を、実際にカタチにする、まさに“建築の根幹”だ。
それが崩れれば、住宅の品質も安全も維持できなくなる。

現場が壊れれば、産業全体が崩れる――。
これは、誰もが直視すべき現実である。

次回は、なぜここまで「現場の声が届かないのか」。
設計と施工の断絶という、もうひとつの構造的問題に切り込む。

 

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