「お宅の屋根瓦がずれています。このままだと雨漏りしますよ」
突然訪ねてきた業者から、そんなことを言われたら、どうしますか?
しかも、スマートフォンには屋根の写真。瓦がずれているように見えます。
「ドローンで撮影した写真ですから、間違いありません」
そこまで言われれば、屋根に上がって自分で確認することもできず、信用してしまう方もいるでしょう。
ところが、その写真が、そもそも自分の家の屋根ではなかったら?
信じられないような話ですが、三重県伊勢市が2025年4月18日に更新した消費生活情報では、ドローンで撮影したという屋根の写真を見せられて契約したところ、別の家の屋根の写真だったという事例が紹介されています。
これは単なる住宅修理の注意事項ではありません。
建物の所有者が確認できない部分について、業者から示された情報をどこまで信用してよいのか。住宅修理の現場にある、深刻な問題を示しています。
3,000円の点検が、約60万円の工事契約に
国民生活センターが2025年7月10日に公表した相談事例にも、考えさせられる内容があります。
80歳代の方が、突然訪問してきた業者から屋根瓦のずれを指摘されました。
地震の影響かもしれないと言われ、3,000円の点検を依頼。翌日、屋根瓦の写真を見せられ、放置すれば雨漏りするとの説明を受け、約60万円の屋根工事を契約しました。
その後、慌てて契約したことに不安を感じ、解約について相談したという事例です。
この事例で注目したいのは、工事金額だけではありません。
3,000円の点検を依頼する判断と、60万円の工事を契約する判断が、ほとんど一続きになってしまったことです。
屋根に本当に不具合があったのか。補修が必要だったのか。提示された工事費は妥当だったのか。
それぞれ別々に確認しなければならない問題なのに、雨漏りへの不安が先に立つと、十分な検討をしないまま契約へ進んでしまう可能性があります。
点検商法の相談は、2025年度に19,696件
では、このような問題は、一部の特殊な事例なのでしょうか。
国民生活センターが2026年7月31日に更新した統計では、全国の消費生活センター等に寄せられた「点検商法」の相談件数は次のようになっています。

2023年度の12,550件から、2025年度には19,696件へ、約1.6倍になっています。
ただし、この数字は屋根工事だけではありません。給湯器、分電盤、太陽光発電設備など、さまざまな点検商法を含んでいます。
屋根工事に限った過去の統計を見ると、国民生活センターの2023年10月11日の発表では、2018年度の923件から2022年度の2,885件へ、約3.1倍に増加していました。
つまり、屋根の無料点検をめぐる問題は、以前から公的機関が繰り返し注意を呼びかけている問題なのです。
写真に傷みが写っていても、工事が必要とは限らない
ここからは、建築士の立場で考えてみましょう。
例えば、屋根瓦の一部がずれている写真を見せられたとします。
写真に写っている状態が本物であっても、それだけで屋根全体の葺き替えが必要だと判断できるわけではありません。
確認すべきことは、少なくとも三つあります。
第一に、その写真が本当に対象の建物を撮影したものなのか。
第二に、写っている状態が実際に補修を必要とする不具合なのか。
第三に、その不具合を修理するために、どこまでの工事が必要なのか。
この三つは、それぞれ異なる判断です。
例えば、瓦のずれが局所的なものであれば、その部分の補修で対応できる場合があります。
一方で、屋根下地や防水層まで傷んでいる場合には、表面の屋根材だけを直しても十分ではないことがあります。
金属屋根であれば、板金の接合部や固定部分、屋根の端部なども確認対象になります。
そして、雨漏りが発生している場合には、屋根表面の傷みと、実際に雨水が建物内部へ侵入している経路が一致するとは限りません。
屋根の上を流れた雨水が、別の場所から内部へ入り、梁や下地材を伝って室内に現れることもあります。
だからこそ、屋根の写真は調査の手掛かりにはなっても、雨漏りの原因や工事範囲をすべて証明するものではないのです。
ドローンは便利。しかし、万能な調査機器ではない
ここで誤解していただきたくないのは、ドローンによる屋根点検そのものが悪いわけではないということです。
ドローンは、屋根の外観を安全な距離から確認するための有効な手段の一つです。
高い屋根や急勾配の屋根など、人が上がることに危険が伴う場所では、特に活用の余地があります。
しかし、ドローンで撮影できるのは、基本的に撮影方向から見える範囲です。
屋根材の下にある防水シートの状態や、下地材の腐朽、固定部の内部状態まで、通常の外観写真だけで確認できるわけではありません。
つまり、問題なのはドローンという技術ではなく、写真から確認できる事実と、確認できないことを区別せずに説明することです。
「この写真の部分に不具合が見えます」という説明と、「だから屋根全体を交換しなければなりません」という説明には、大きな隔たりがあります。
その間を埋めるのが、本来の建築調査と工事計画です。
では、業者から屋根の写真を見せられたら、どうすればよいのか
まず、突然訪問してきた業者に、その場で屋根へ上がってもらう必要はありません。
国民生活センターも、突然訪問した業者に安易に点検させないこと、工事を即決しないことを勧めています。
すでに写真を提示された場合でも、慌てる必要はありません。
写真が本当に自宅の屋根であるかを確認するには、建物全体や屋根形状、周囲の建物との位置関係が分かる画像と、問題箇所の拡大画像を照合する方法があります。
そのうえで、修理が必要だと説明された箇所について、位置、傷みの内容、必要とされる工事範囲を具体的に確認します。
例えば、「屋根補修工事一式」という見積書だけでは、どこをどのように修理するのか判断しにくいでしょう。
補修する場所、数量、使用材料、仮設足場の有無、既存材の撤去・処分、工事後の確認方法などが分かる見積書であれば、ほかの事業者との比較もしやすくなります。
2026年1月20日には、住宅リフォーム・紛争処理支援センターが、2026年版の単価情報を基にリフォーム工事の見積事例を更新しています。こうした公的な相談窓口の資料も、費用を検討する際の参考になります。
お知らせ [住まいるダイヤル(公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター)]
もちろん、瓦が落下しそうな状態や、実際に雨漏りが発生している場合には、早急な安全対策や応急処置が必要になることもあります。
その場合でも、必要な応急対応と、屋根全体の改修契約は分けて判断できます。
なお、所有者自身が屋根に上がって確認することは、転落などの危険があるため避けてください。
本当に必要な工事まで疑ってしまう社会にしてはいけない
この問題には、もう一つ重要な側面があります。
屋根の修理を勧める業者が、すべて悪質というわけではありません。
実際に雨漏りや屋根材の劣化が発生している住宅もあり、適切な時期に補修しなければ、被害が拡大する場合もあります。
むしろ、問題のある勧誘が繰り返されることで、本当に必要な点検や修理まで疑われるようになってしまうことが懸念されます。
住宅の修理は、所有者が専門知識を持っていないことを前提に、業者側が分かりやすく説明する必要があります。
何が確認できたのか。
何がまだ確認できていないのか。
なぜ、その工事が必要なのか。
そして、どこまで修理すればよいのか。
こうした説明を写真や図面、見積書などで具体的に示すことが、信頼できる住宅修理の基本だと考えます。
もし契約してしまったら、諦める前に相談を
突然の訪問販売で住宅リフォーム工事を契約した場合には、特定商取引法によるクーリング・オフの対象となることがあります。
消費者庁は、訪問販売に該当する場合、法定書面を受け取った日から原則8日以内であれば、書面や電子メール等によって契約を解除できることを案内しています。契約形態や書面の交付状況などによって扱いは異なります。
契約をしてしまった場合には、契約書や見積書、写真、業者とのやり取りなどを保存し、早めに相談することが大切です。
消費者トラブルの相談先は、全国共通の消費者ホットライン「188」。
住宅の修理方法や見積書の内容については、国土交通大臣指定の住宅専門相談窓口「住まいるダイヤル」も利用できます。
まとめ|家を守るために必要なのは、恐怖ではなく正しい判断
住宅の屋根は、普段の生活ではほとんど見ることがありません。
だからこそ、突然「危険です」と言われれば、不安になるのは当然です。
しかし、屋根が傷んでいるかどうか、修理が必要かどうか、提示された金額が妥当かどうかは、それぞれ確認することができます。
写真を見せられたから信用する。
専門業者が言っているから間違いない。
今すぐ直さなければ大変なことになる。
そうした説明だけで、高額な工事を決める必要はありません。
本当に信頼できる住宅修理とは、不安をあおって契約を急がせることではなく、所有者が納得できる根拠を示し、必要な工事を適切に提案することです。
住宅を長く使い続けるためには、定期的な点検や適切な修理が欠かせません。
そして、その大切な工事を安心して任せられるかどうかは、業者が示す説明と、その裏付けを確認することから始まります。