―連載:現場崩壊と再構築のはざまで―
私は、大工として40年、建築士として35年、さらに国家資格を10以上有し、大手ゼネコンやハウスメーカーの協力会社として、特殊工事から住宅まで数多くの現場に立ち会ってきました。
現場のリアルを肌で知る立場として、今、建設業界の構造が危機的状況にあることを実感しています。
そして、これまでこの構造の崩れを“民間任せ”として放置してきた国・行政の姿勢こそ、見過ごしてはならない**“もうひとつの事実”**なのです。
■ 「制度の外」で戦ってきた施工店たち
住宅産業における多くの施工店や職人たちは、長年、“制度の保護外”で働いてきました。
建築基準法は建物の構造や安全を定めても、職人の待遇や地位には一切触れない。
下請法は存在するものの、グレーな契約慣行には届かず、契約書すら交わさず仕事が始まる現場もまだ多いのが実態です。
特にハウスメーカーやゼネコンとの取引では、「言われた通りに動かなければ切られる」空気が根強く、発言権は事実上ゼロに近い。
【事例:法の網からこぼれる“グレー発注”】
中部地方のある電気設備業者はこう語る。
「図面が来て、すぐに現場入り。でも正式な契約書は出ない。後から“これは含まれていない”と報酬を減らされた」
下請法の“対象外”として発注者側が逃げられる構造。こうした発注慣行が建設業の信頼性を根底から壊している。
■ 若手育成も制度から外れている
職人不足が深刻と言われ続けているが、実際に国が現場に対して行ってきた支援はほとんどない。
公共工事では技能者評価制度や賃金目安が存在するものの、**民間住宅工事では完全に“空白地帯”**だ。
その結果、若者は入ってこない。育てる仕組みもない。育成を担ってきた中小の協力店が、いま次々と潰れている。
現場を支えてきたのは、制度ではなく、現場の意地と努力だけだった。
■ 【筆者の提言】行政は“知らなかった”では済まされない
私はあえて言いたい。
これまで国や自治体は、「施工店の地位」「職人の労働環境」について、あまりに無関心だった。
「民間同士の自由な契約」と言えば聞こえはいい。
だがその自由は、力のある側が弱い側を支配する構造を放置するための口実として使われてきた。
そして今、その放置のツケが一気に回ってきている。
施工力の低下、安全性の不安、若手の不在、技術継承の途絶――これらすべてが制度不在による“当然の結果”なのだ。
■ 誰が再構築のスタートを切るのか?
現場の限界はもう、現場の努力だけではどうにもならない段階に来ている。
必要なのは、以下のような制度の側からの本格的な再構築である。
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施工店との契約ルールの明文化と標準化
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技能者評価・報酬の公的基準の整備
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住宅現場における労働安全・工程管理の最低基準
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若手職人育成への補助金やキャリア制度の拡充
そして何より、行政が“黙認”ではなく“責任を持つ”という姿勢に切り替えること。
現場を知らない行政に、現場の声を届ける手段を整えること。
私は、誰よりも現場に近い立場から、この構造の崩れをずっと見てきました。
そして今、声を上げなければ、次の世代に何も残せないと確信しています。
建設現場は制度に守られていない。だからこそ、行政が動かなければ、未来はない。
次回は、いま業界が“本当に目指すべき再構築”のあり方について、提言をまとめます。
「建てる人間が主役になる社会」――その実現の可能性を探ります。
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