2025年3月28日金曜日

住宅リフォームの境界線 /確認申請の規模か違うか?―大工建築士の視点から―




住宅リフォームと一言で言っても、その工事の規模や内容には幅があります。
ちょっとした修理からフルリノベーションまで、実際に現場で手を動かしていると、「これは大規模修繕に入るのか?」「確認申請が必要か?」と、線引きに迷うことも少なくありません。

今回は、大工であり設計の立場も持つ私なりに、住宅リフォーム工事の分類とその境界線について整理してみたいと思います。


1|日常的な「小規模修繕」

まず、一番身近な工事といえば、いわゆる「小修繕」。

・水栓の取り替え
・クロスの貼り替え
・一部の床材張替え
・網戸の交換

といったように、生活にすぐ直結するけれど、建物全体の性能や構造には影響しない範囲の工事です。
このあたりは施主さん自身がDIYでやることもあるくらいで、確認申請も不要。当然、建築基準法上の「大規模修繕」には当たりません。


2|ちょっと踏み込んだ「中規模改修」

続いて、設備の入れ替えや内装のリニューアルなどを含む中規模のリフォーム。

・キッチンや浴室の入れ替え
・間仕切りの変更
・断熱材の追加
・外壁の一部塗装や屋根の張り替え

などがこのあたり。
現場感覚で言えば、「足場が必要になるか」「職人が複数入るかどうか」がひとつの目安です。

このレベルになると、構造部に手を加えない限り、確認申請は不要であることが多いです。補助金も活用しやすく、「省エネ」「バリアフリー」などテーマを持ったリフォームもここに分類されます。


3|工事が生活に及ぶ「フルリノベーション」

では、フルリノベとなるとどうでしょうか。

・間取りの一新
・屋根・外壁の全面改修
・耐震補強や基礎の補修
・給排水管・電気配線の総入れ替え
・断熱改修と設備の一新

ここまでくると、居住しながらの工事はほぼ不可能ですし、仮住まいの手配も必要になるケースが多くなります。

個人的な感覚としては、「現地調査したときに“これはほぼ建て替えに近い”と思える工事」が、このレベルです。

この段階では、確認申請が必要になることが多く、場合によっては「大規模の修繕」または「大規模の模様替え」に該当してくる可能性があります。


4|「大規模修繕工事」の定義とは?

ここで整理しておきたいのが、建築基準法上の「大規模の修繕・模様替え」の定義。

主要構造部に手を加える工事が“過半に及ぶ”場合は、たとえ元の構造のままでも「大規模修繕」とされ、確認申請の対象になります。
逆に、たとえ工事費が高額でも、構造に触れず、意匠や設備の更新であれば「大規模修繕」には当たりません。

これがややこしいところ。
施主さんから見れば「全部やってるんだから大規模でしょ」と思われる工事でも、構造に触れてなければ申請不要だったりします。
一方で、ちょっとした耐震補強でも構造部に広範囲に手を加えれば「申請必要」になることも。


5|補助金工事は“大規模修繕”ではない

最近多いのが「補助金を活用した断熱・省エネリフォーム」。

この種の工事は、たとえ補助金対象であっても、「大規模修繕」に該当することはほとんどありません。
あくまで工事の内容と範囲が建築基準法に引っかかるかどうかが判断基準だからです。

補助金申請の書類と、確認申請の書類はまったく別物だというのも、意外と施主さんに理解されにくい部分です。


6|最後に:現場での線引きは「感覚+法知識」

最終的に、「これは申請が必要か?」「どの規模にあたるのか?」という判断は、設計者の法的な知識と、現場サイドの感覚の両方が必要です。

私自身、設計事務所に所属していた頃は法解釈の方を重視しがちでしたが、実際に大工として現場に入るようになってからは、「現場の負担」「住まい手の生活」も含めて判断するようになりました。

施主さんにとっては、申請の有無よりも「安心して住めるかどうか」が第一。
だからこそ、「どの工事がどこまでの手続きを伴うのか」をしっかり説明できる職人・設計者でありたいなと思っています。


大工のおっちゃん工房のページ


 

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