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旅行者は“日本を感じる瞬間”を探している ──合理主義の上に宿を設計する時代へ

  アシちゃんが見た“宿のリアル”と、大工のおっちゃんが語るこれからの宿づくり 旅行者は“日本を感じる瞬間”を探している──合理主義の上に宿を設計する時代へ アシちゃんが見た“宿のリアル”と、大工のおっちゃんが語るこれからの宿づくり はじめに 彼女の名前は アシちゃん 。 建築や宿泊業の現場を歩きながら、地域の宿オーナーやスタッフに直接話を聞く取材リポーターだ。 現場の空気を肌で感じ、ノートに書き留め、時には宿泊して雰囲気まで確かめる。 今回のテーマは「外国人旅行者の長期滞在」。 アシちゃんは地方の宿をいくつも巡り、そのリアルな声を“大工のおっちゃん”にぶつけてみた。 導入 アシちゃん: この夏、地方の宿をいくつか取材して回ったんです。どこも「外国人のお客さんが増えた」って言っていました。 でも同時に、「長く滞在してくれるけど、思ったよりお金を落とさない」って声もあって。現場の人たち、けっこう悩んでいましたよ。 おっちゃん: そうだろうね。今はもう、旅行のスタイルそのものが変わってるんだ。 彼ら、旅を“遊び”じゃなくて“設計している”んだよ。日本人みたいに、行ってから考えるんじゃなくて、来る前に全部段取りを立ててる。 だからね、無駄が嫌いなんだよね。時間もお金も、自分の目的のためにちゃんと使いたいって思ってる。 1章:旅行者は“合理”で動いている アシちゃん: 設計してる、って言葉、すごくわかりやすいです。でも、宿の側から見ると「なんでそんなにシビアなんだろう?」って思うこともあります。 おっちゃん: うん、それは文化の違いだね。海外の人たちは、旅の準備にものすごく時間をかけるんだ。日本人の5倍、いや10倍くらい調べてくる。 どんな交通手段があるか、現地のスーパーの場所、Wi-Fiの速度まで。だから宿は、「行き当たりばったりな観光客」を相手にしてるつもりでいると、ズレるんだよ。 彼らが宿に求めてるのは、サービスよりも“安心できる仕組み”なんだ。チェックインがスムーズで、説明がわかりやすくて、設備が使いやすい。 それが整っていれば、「ここは信用できる」って感じる。つまり、 情緒より前に合理 が来るんだね。 2章:合理の上に“情緒”が生きる アシちゃん: でも、合理だけだと味気...

資金力では勝てない時代へ──旅行者の心をつかむ“宿の演出”とは? ~豪華さ vs. 温もり、オーナーの思想が宿ににじむ~


旅館業界において、今、2つの流れがはっきりと見えてきました。 ひとつは、都市部や外資系、または大手企業のバックアップを受けて、リノベーションやブランディングを進める「資金力のある旅館」。 もうひとつは、地方で長く家業として営まれ、家族単位でこだわりを持って続けている「個人経営の旅館」。

どちらが優れている、という話ではありません。 しかしここ数年、旅行者たちが旅先で感じる“宿の印象”には、微妙な違和感が広がっています。 「豪華で綺麗だけど、どこも似ていてつまらない」 「便利だけど、記憶に残らない」

本記事では、「資本力のある宿」と「個人オーナーの宿」が持つ特性を整理しながら、 “本当に旅行者の心を掴む宿の演出”について考察していきます。


第1章:資金力で“勝てない”時代になってきた理由

大規模な資本をもとにした旅館は、たしかに魅力的です。 デザイナーが手掛けた空間、SNS映えする照明や内装、洗練されたアメニティ、スタッフの丁寧な所作……。 どこを切り取っても「非日常」で、「写真に撮りたくなる」仕掛けに満ちています。

しかし、それにもかかわらず、旅行者の満足度が思ったほど高くないケースも増えています。 「綺麗だけど、記憶に残らない」「似たような宿が多すぎる」

これが、資金力だけでは勝てない時代になっている最大の理由です。 つまり、

お金をかけた演出が、“記憶に残る宿”にはつながらない という現実です。

旅行者が無意識に感じているのは、 「どこかから“与えられた豪華さ”」ではなく、 「この宿ならではの“想い”や“温度”」なのです。


第2章:個人オーナー旅館の「不完全さ」が強みになる理由

一方で、個人オーナーが運営する小さな宿には、しばしば“計算されていない空気感”があります。 時にはちょっとした不便さや、建物の古さが目立つこともあります。 けれど、そこに「人の気配」がある。 「誰かが手入れしている」「思いが込められている」と感じられる空間には、不思議と安心感があります。

例えば、

  • 廊下の隅に飾られた季節の野花

  • 地元の作家が作った器を使った朝食

  • 小さな手書きのメッセージカード

これらは、決して高価な演出ではありません。 でも、「ああ、ここに来て良かったな」と思わせるには十分すぎる“余白”です。

旅行者は、「完璧」を求めているわけではないのです。 むしろ「ちょっとした不完全さ」に、宿の“人間らしさ”を感じているのかもしれません。


第3章:旅行者が求めている“宿の本質”

旅行の目的は、今や「観光地をめぐる」から「その土地の空気を味わう」へとシフトしています。 つまり、

宿そのものが“体験の中心”になっている ということです。

  • 昔ながらの囲炉裏で食べた夕食

  • 朝、障子越しに差し込む光

  • 窓から見える棚田や川のせせらぎ

これらは、SNS映えはしないかもしれません。 でも、心に残る体験として、ふとした瞬間に思い出される“記憶”になります。

口コミでもよく見かけます。 「名前を覚えてくれていた」「前回の好みを覚えてくれていた」「手書きの地図が温かかった」

旅行者が求めているのは、“期待を超える体験”というよりも、 **“心をほぐしてくれる時間”**なのです。


第4章:演出のポイントは「空間×人×物語」の設計

宿の演出というと、「建材を良くする」「設備を豪華にする」と考えがちですが、 本質はまったく別のところにあります。

  • 客室の照明が柔らかく、読書に適している

  • 静かな中庭が見える一人用の部屋

  • スタッフが方言で話しかけてくれる

こうした細かな“空間・人・物語”の組み合わせが、旅館の「体験価値」を形作っていきます。

また、物語は意図して作る必要はありません。 建物が古いなら、その歴史を語ればいい。 家具が古道具なら、その由来をラウンジに置いたパンフで紹介すればいい。

旅行者が「人に語りたくなる話」があれば、それが立派な“演出”になります。


第5章:オーナーとして何を軸に据えるか

これからの旅館運営において、オーナーが最も考えるべきなのは、

**「誰のために、どんな時間を提供するのか」**という思想です。

資金の多寡ではなく、「誰に刺さるか」がすべてです。

例えば、

  • 子連れ家族に特化した宿

  • ワーケーション需要に対応した静かな書斎付き客室

  • ひとり旅専用のミニマル宿

“万人受け”を目指すより、たった100人に深く刺さる宿の方が、長く愛されます。

小さな宿であっても、

  • 季節のはがき

  • 好きな音楽を選べるBGMリスト

  • 常連さんとの手紙のやりとり

こうした「仕組み化された温かみ」は、どんな高級宿でも真似できません。


結び:宿の価値は“空気”で決まる

旅館は、寝る場所ではありません。 旅の中で「心を休ませる場所」であり、「その土地と人を感じる接点」でもあります。

資金があるから勝てる時代は、終わりつつあります。 これからは、思想と体温を持った宿が選ばれていくでしょう。

宿の価値は、“空気”で決まる。

その空気を作れるのは、間違いなく「オーナーの思想」なのです。


 

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