2025年4月10日木曜日

現場を知らない建築士が増える時代に、伝えたいこと ― 大工の棟梁であり、1級建築士である私から ―



こんにちは。
私は、大工の棟梁として現場に立ち続けながら、同時に1級建築士として設計にも関わってきました。

一見すると正反対のように見える「手を動かす職人」と「机上で図面を描く建築士」。
そのどちらにも本気で向き合ってきたからこそ、伝えたいことがあります。

それは、図面だけでは、本当の建築は語れないということです。


図面は完璧、でも現場では納まらない?

プレカットの図面どおりに加工された木材が、現場で納まらない。
そんな経験を何度もしてきました。

原因は、たった一本の柱の根元にあった“わずかなねじれ”。
CADの画面ではわからないけれど、大工なら木を見た瞬間にわかる、そんな違和感。

現場では、どう納め直すかを即座に判断します。
削るか、噛ませるか、調整し直すか。
その判断は、図面ではなく「手と目と勘」で決まります。


技術は“伝える”より“育てる”もの

最近よく聞く「職人技の継承」。
動画で記録する、3Dで残す、技術塾を作る。どれも素晴らしい取り組みです。

でも、本当の意味での技術継承とは、「手順」を教えることではありません。
それは、“なぜこの納め方を選ぶのか”“どう判断したのか”という、言葉にならない部分ごと伝えること

つまり、現場に身を置いて、五感で学ぶ以外にないのです。


図面の向こうには、現場がある

私が設計士として図面を描くとき、常に思い浮かべるのは現場です。

この納まりは施工しやすいか?
大工にとって無理のない加工か?
どこで狂いが出る可能性があるか?

設計とは、現場の空気を知らなければ本質には迫れません。
だから、これから建築士になる方にも、すでに建築に関わっている方にも伝えたいのです。

図面の向こうには、人がいて、素材があって、現場があります。


AIの時代に、なぜ“手の技術”が必要なのか?

今やAIが建築の設計や積算をこなす時代。
私自身も、テクノロジーに助けられていることは多くあります。

けれど、木の香り、音、手の感触、重さ、乾き具合……。
それらはAIには読み取れないし、きっとこれからも完全には“感じられない”ものだと思います。

手で感じる技術、目で読む判断、経験でしか得られない感覚。
それらこそが、テクノロジーが進むほど価値を持つ時代になると、私は信じています。


「大工の棟梁」であり「建築士」である私が願うこと

現場に立ち、手を動かし、図面も描いてきた。
そんな私だからこそ感じるのは、**建築とは、知識と感性のどちらも必要な“人の営み”**だということです。

机上の知識だけでも、現場の勘だけでも、きっと建築は完成しません。

だからもし、あなたがこれから建築士を目指すのなら。
あるいは今、設計の仕事に携わっているのなら。
どうか一度、現場の空気を感じてみてください。

図面で描いた線の先にある「現実」を知ったとき、
きっとあなたの建築は、もっと“生きたもの”になるはずです。


最後に。

私はこれからも、設計と現場の“間”に立ち続けたいと思っています。
それは、建築の本質を問い続けたいからです。

知識だけではつくれない家がある。
感性だけでも納まらない設計がある。
その“あいだ”に立てる人が、これからの時代にはもっと必要になると信じています。

現場を知らない建築士が増える時代だからこそ、
現場の風を知る建築士が価値を持つ

そのことを、今ここに記しておきたいと思います。


 

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