2.11.26

「リフォーム代が払えないなら家を売ればいい」――自宅1,100万円で売却、さらに450万円の工事契約。実際に起きた住宅トラブル



「工事代金が払えないのであれば、ご自宅を売却して、そのお金でリフォームすればいいんですよ」

もし、リフォーム業者からこんな提案を受けたら、どう思われるでしょうか。

家を売ってしまったら、住む場所がなくなるのでは?

当然、そう考えますよね。

ところが、業者から「売却しても、家賃を払えば今の家にそのまま住み続けられます」と説明されたとしたらどうでしょう。

住み慣れた家を離れずに済む。まとまったお金も手に入る。古くなった住宅もきれいにできる。

一見すると、都合のよい話に聞こえるかもしれません。

しかし、その契約によって自分の家が他人の所有物になり、将来は住み続けられなくなる可能性があることまで、理解できているでしょうか。

実は、こうした問題が現実に起きています。

今回は、国民生活センターが公表した実際の相談事例を基に、住宅のリフォームと売却に潜む問題を考えてみたいと思います。


自宅を1,100万円で売却、さらに450万円のリフォーム工事を契約

2026年8月4日、国民生活センターは住宅の「リースバック」に関するトラブル事例を公表しました。

その中に、非常に気になる相談があります。

70歳代の女性に関する、2026年2月受付の相談です。

相談内容によると、母親が一人で暮らしている家に業者Aが訪問し、床のリフォーム工事を契約しました。

ところが、母親が工事代金を支払えないと伝えると、不動産業者Bを紹介されたというのです。

その後、母親は自宅を1,100万円で売却し、同じ住宅に住み続けるための賃貸借契約を結んでいました。

さらに、リースバック契約と同じ日に別の業者Cが訪問し、450万円のキッチンなどのリフォーム工事も契約していました。

母親が売却代金から工事費を支払おうとしたところ、金融機関から警察への通報があり、家族へ連絡が入ったとされています。

リフォーム工事についてはクーリング・オフが了承されたものの、自宅の売買契約については解除を断られたとのことです。

相談者は、売却代金では3年ほどしか住み続けられないと訴えています。

これは作り話ではありません。国民生活センターが公表した相談事例です。ただし、相談者の申告に基づく内容であり、各事業者の違法行為が司法的に確定したという意味ではありません。

国民生活センター

皆さんは、この話をどう受け止められるでしょうか。


リフォームするはずが、家そのものを失うことに

今回の問題で、私が建築士の立場から特に注目したいのは、住宅を修繕するという当初の目的と、自宅を売却するという結果が、まったく釣り合っていないことです。

古くなった床を修繕したい。キッチンを新しくしたい。

こうした希望は、住宅を所有していれば誰にでも生じます。

しかし、工事代金が支払えないからといって、自宅を売却することが当然の解決方法になるのでしょうか。

本来であれば、まず修繕が必要な箇所を確認し、工事の緊急性や範囲、必要な費用を整理することが先ではないでしょうか。

例えば、床の一部が傷んでいる場合でも、原因によって工事内容は変わります。

仕上げ材だけの劣化なのか。床下の湿気や漏水が関係しているのか。下地や構造材まで傷んでいるのか。

それによって、必要な修繕範囲も費用も違ってきます。

工事内容を十分に検討せず、高額な契約を結び、支払えなければ住宅を売却する。

このような流れには、住宅所有者の立場から見て大きな問題があります。

ましてや、売却後の住宅は自分の所有物ではありません。

その住宅に450万円もの改修費用を掛けることが、今後の生活にとって本当に必要なのか。

工事の必要性だけでなく、所有権や賃貸借契約との関係まで考えなければならないのです。


「売っても住み続けられる」という言葉の落とし穴

ここで、リースバックという仕組みについて説明しておきましょう。

リースバックとは、自宅を売却して代金を受け取り、その後は買主と賃貸借契約を結び、家賃を支払いながら同じ住宅に住み続ける方法です。

国土交通省も2022年6月24日に、消費者向けのガイドブックを公表しています。

住み替えや高齢者施設への入居資金、建て替え資金の確保など、目的によっては活用できる仕組みです。

国土交通省

しかし、ここで忘れてはいけないことがあります。

自宅を売却した時点で、住宅の所有者ではなくなるということです。

それまで自分の家だった建物に、今度は借主として住むことになります。

そして、住み続けるためには家賃を支払わなければなりません。

例えば、毎月8万円の家賃を支払う契約だったとしましょう。

年間では96万円。10年間では960万円。15年間では1,440万円になります。

これは説明のための仮定計算であり、実際の相談事例の契約金額ではありません。

もちろん、家賃を支払うこと自体が問題なのではありません。

問題は、まとまった売却代金が手に入ることばかりに目が向き、その後何年も続く家賃負担を十分に検討しないことです。

さらに、賃貸借契約の種類によっては、契約期間が終了した後に住み続けられない場合もあります。

「そのまま住めます」という説明が、「一生住めます」という保証になるわけではないのです。


200万円で売った自宅、買い戻しには1,000万円?

国民生活センターの同じ公表資料には、別の相談も紹介されています。

70歳代の男性が、自宅マンションを200万円で売却し、2年間の定期借家契約を結びました。

その後、契約期間の終了によって退去しなければならなくなる可能性を考え、自宅を買い戻したいと申し出たところ、業者から提示された金額は1,000万円だったというものです。

売却した金額の5倍です。

国民生活センター

ただし、この事例だけで1,000万円という提示額の市場価値上の妥当性や違法性まで判断することはできません。

それでも、ここから分かる重要なことがあります。

一度売却した住宅を、後から同じ金額で買い戻せるとは限らないということです。

自宅を売るという判断は、単にお金を受け取るだけの話ではありません。

住まいを所有する権利そのものを手放すということなのです。


2026年10月にも、国民生活センターが改めて注意喚起

こうした問題は、過去の一時的な話ではありません。

2026年10月1日、国民生活センターは「リースバック契約は慎重に」という見守り新鮮情報第552号を公表しました。

そこでは、80歳代の方が自宅マンションを1,200万円で売却するリースバック契約について、長時間勧誘を受けて契約したという相談が紹介されています。

後から解約を申し出たところ、手付金50万円の返金と違約金50万円を求められたという内容です。


国民生活センター

2025年5月21日の国民生活センターの公表資料では、リースバックに関する相談の契約当事者の約7割が70歳以上であったことも報告されています。


国民生活センター

高齢者の方が長年暮らしてきた自宅を手放す。

これは、単なる不動産取引として片付けられる問題ではありません。

生活の基盤そのものに関わる判断なのです。


自宅を売却した後、雨漏りや設備の故障が起きたら?

ここからは、建築士としてもう一つ考えておきたい問題があります。

それは、建物の維持管理です。

住宅は、売却したからといって老朽化が止まるわけではありません。

屋根の防水、外壁の劣化、給排水設備の故障、床下の腐朽など、建物の状態によっては今後も修繕が必要になります。

自分の所有する住宅であれば、修繕の時期や方法、予算について所有者として判断できます。

しかし、リースバック後は所有者が変わります。

例えば、屋根から雨漏りが発生した場合、誰が修繕を手配し、費用を負担するのでしょうか。

給湯器が故障した場合はどうでしょう。

入居者が希望する断熱改修やバリアフリー工事は、自由に行えるのでしょうか。

これらは、賃貸借契約の内容や関係法令、故障・損傷の原因などによって扱いが異なります。

「以前は自分の家だったから」という理由だけで、自由に工事ができるとは限りません。

住宅を売却する前に、将来の修繕や設備更新を誰が負担し、どのように進めるのかを確認しておく必要があります。

特に築年数の古い住宅では、家賃だけでなく、建物の維持管理に関する契約条件も重要な判断材料になります。


リフォーム費用が高いと感じたら、まず工事の中身を確認する

では、住宅の修繕が必要なのに、見積金額が高くて困っている場合はどうすればよいのでしょうか。

まず確認したいのは、その工事が本当に必要なのかということです。

例えば、業者から「床下が傷んでいるので、床を全面的に交換しなければなりません」と説明された場合。

どの部分が傷んでいるのか。原因は何なのか。部分的な修繕では対応できないのか。

写真や調査資料、工事範囲を示した図面などで説明してもらうことが重要です。

また、古いキッチンだからといって、必ず高額な設備へ交換する必要があるとは限りません。

現在の設備の状態や家族の生活状況によって、交換する範囲や仕様は選べます。

住宅の修繕には、今すぐ対応すべき工事と、時期を調整できる工事があります。

その区別をせず、すべてを一度に契約する必要はありません。

工事内容と金額に疑問がある場合は、別の施工業者や建築士などに相談し、必要な工事範囲を整理することも有効です。

そして、リフォーム工事の契約と、自宅の売却契約は別々に考えるべきです。

工事代金を支払うために住宅を売却するのであれば、工事の必要性だけでなく、不動産売買、賃貸借、将来の資金計画まで検討しなければなりません。


自宅の売却契約は、簡単に取り消せるものではない

もう一つ、知っておいていただきたいことがあります。

国民生活センターは、消費者が不動産業者に自宅を売却する場合、宅地建物取引業法のクーリング・オフは適用されないと注意喚起しています。

契約成立後に売主側から解除する場合、契約条件や解除の段階によっては、手付金や違約金などの問題が生じます。

国民生活センター

もちろん、不当な勧誘や契約上の問題があれば、別の法的な救済が検討できる場合もあります。

しかし、「契約してから考えればよい」という判断は危険です。

特に、高額なリフォーム工事と自宅売却の話が同時に進んでいる場合は、その場で決断せず、家族や独立した専門家に相談することが重要です。

住宅の修繕内容は建築士などの建築専門家に、不動産売買や賃貸借の契約条件は宅地建物取引士や弁護士など、問題に応じた専門家に確認することが考えられます。

契約内容に不安がある場合には、消費者ホットライン188を通じて消費生活センターへ相談する方法もあります。


これからの中古住宅は、建物だけでなく所有と維持管理まで考える時代へ

中古住宅の活用やリノベーションには、大きな可能性があります。

古い建物でも、適切な調査と設計によって、今の暮らしに合った住宅へ再生できる場合があります。

また、所有している住宅を活用して、住み替えや老後の生活資金を確保するという選択肢もあります。

しかし、その方法を選ぶためには、建物の状態だけでなく、所有権、契約期間、家賃、維持管理費用などを一体として考える必要があります。

特に高齢者世帯では、今後の収入や家族構成、健康状態の変化によって、住宅に求める条件が変わることもあります。

今の家に住み続けたいのか。将来は住み替えたいのか。住宅を相続する予定があるのか。

その目的によって、適切な選択肢は異なります。

これからの中古住宅活用では、単に「売れるか」「直せるか」だけではなく、その家を今後どう使い、誰が所有し、どのように維持していくのかという視点が、ますます重要になると考えます。


まとめ|家を直すために、家を失ってはいけない

今回取り上げた国民生活センターの相談事例は、住宅の修繕を考えている方にとって、決して他人事ではありません。

古くなった家を直したい。

できれば住み慣れた家で、これからも暮らしたい。

その希望を実現するためにリフォームを検討していたはずなのに、気が付けば住宅の所有権を手放し、家賃を支払う立場になっていた。

それでは、当初の目的から大きく外れてしまう可能性があります。

リースバックという制度自体が悪いわけではありません。

問題は、仕組みや将来の負担を十分に理解しないまま契約してしまうことです。

そして、リフォーム工事についても同じことが言えます。

業者から提示された工事内容や金額が、本当に自分の住宅に必要なものなのか。

別の方法はないのか。

契約する前に、確認していただきたいと思います。

「家を直すために、家を失う」。

そんなことにならないよう、住宅の修繕と売却は、決して一つの話として安易に進めないことです。

長年暮らしてきた家は、単なる建物ではありません。

これからの生活を支える、大切な財産なのです。


大工のおっちゃん工房 一級建築士

大工としての施工経験と、一級建築士としての設計・構造・法規の知識を基に、住宅の改修や維持管理について、現場と設計の両面から考えています。

公式ホームページ:https://www.daikukoubou.com/

参考資料

国民生活センター|自宅の「リースバック」トラブルにご注意!

2026年8月4日公表。1,100万円の売却と450万円の工事契約など、実際の相談事例を掲載。

公表資料を確認

国民生活センター|リースバック契約は慎重に

2026年10月1日公表。80歳代の契約トラブルを紹介した見守り新鮮情報第552号。

注意喚起を確認

国土交通省|住宅のリースバックに関するガイドブック

2022年6月24日公表。利用方法、契約条件、トラブル防止の確認事項。

ガイドブック・公式資料


 

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