2025年5月24日土曜日

「全部オシャレにしたい」は危険? 予算を賢く使う『部分こだわり住宅』のすすめ 〜ハウスビルダー×施主が知っておきたい現実と成功例〜



こんにちは。総合建築アドバイザーとして、住宅の設計・施工・アドバイスを行っている私の立場から、今回は「家づくりのデザインにおいて、全部にこだわるのは本当に正解なのか?」というテーマでお話しします。

SNSや住宅雑誌などの影響で、「全部おしゃれな家を目指したい」という声をよく聞くようになりました。確かに、すべてにこだわりが詰まった理想の家には誰もが憧れます。ただ、実際の現場や予算との兼ね合いを知っている私から見ると、それは時に危険な判断にもなり得るのです。

この記事では、私がこれまで携わってきた家づくりの経験から、「全部」ではなく「部分」にこだわることのメリットと、具体的な成功事例、そして施主とビルダーの両者が納得して進められる家づくりの考え方をご紹介します。


なぜ「全部オシャレ」は危険なのか?

家づくりにおいて最も難しいのは、「理想と現実のギャップ」に向き合うことです。特に予算には限りがある中で、すべてを理想通りにしようとすると、かなりの無理が生じます。

たとえば、外壁に高級な塗り壁を使いたい、全室に異なるアクセントクロスを張りたい、造作の洗面台をオーダーしたい…。それぞれは素敵な要望ですが、全体で見ればそれだけで数百万単位のコストアップにつながる可能性もあります。

しかも、こだわりを詰め込みすぎた結果、空間に統一感がなくなったり、掃除やメンテナンス性が落ちたりするケースもあります。いわば、**“良かれと思ったこだわりが住み心地を損ねる”**という本末転倒な結果になることもあるのです。


「絞る」ことが満足度を高める

ここで私が強くお勧めしたいのが、「全部おしゃれ」を目指すのではなく、**“部分的にこだわる”**という考え方です。

住宅の設計では、「どこに力を入れるか」の取捨選択が大切です。たとえば、お客さまを迎える玄関や、家族が長時間過ごすLDKにはデザインのこだわりを集中させ、それ以外の空間はシンプルに仕上げる。こうすることで、家全体の印象は引き締まり、**デザインの“メリハリ”**が生まれます。

また、水回りや寝室などの空間は、むしろ機能性や清掃性を重視したほうが、暮らしやすさという観点では正解になるケースも多いです。


「どこにこだわるか」の実践例

ここからは、私がこれまでアドバイスさせていただいた中で、特に効果的だったこだわりポイントをいくつか紹介します。

● 玄関

家の第一印象を決める場所です。ドアの素材感、照明の演出、壁材やタイルなど、ほんの一部にこだわるだけで「おっ」と思わせる空間になります。

● LDK

家族の時間を最も多く過ごす場所です。照明計画や、床材、造作収納にアクセントを入れることで、日々の満足度が格段に変わります。逆に、LDKが中途半端だと、家全体の価値が下がって感じられることもあります。

● 洗面台

毎日使う場所だからこそ、見た目だけでなく、収納力や使い勝手を意識して設計するのがおすすめです。最近では造作洗面台の人気が高いですが、そこにこだわるかどうかは“生活スタイル”次第です。

● 外観

やはり家の顔。素材の選び方次第で「住宅っぽさ」から「建築作品らしさ」へ印象を変えられます。外壁の素材は一面だけグレードを上げたり、窓配置や軒の出し方でデザイン性を高めることが可能です。


ビルダー側ができる「提案力」の差

設計や営業に関わる方へお伝えしたいのは、施主の「オシャレにしたい」をどう“翻訳”してあげるかという視点です。

私の立場では、日々たくさんの施主の希望を聞き、それを施工や設計の現実と照らし合わせながら「落とし所」を見つけています。重要なのは、単に「できますよ」と言うのではなく、「この範囲なら実現可能です」「この場所にこだわれば全体が引き締まります」といった現実的かつ魅力的な提案をすることです。

それによって、施主の納得感と信頼度は確実に高まります。


成功と失敗、それぞれの事例

ここで、過去に私が関わった事例を2つ紹介します。

● 成功例:LDKだけ徹底的にデザインした家

全体はシンプルな白基調で、素材も標準仕様。けれど、LDKの壁材・照明・床にだけとことんこだわった結果、来客から「ホテルみたい」と言われるような空間になりました。
限られた予算の中でも「ここだけは譲れない」を実現した好例です。

● 失敗例:全部にこだわってチグハグになった家

全室に違う壁紙、照明もバラバラ、家具もテイストが混在…。ひとつひとつは素敵でも、全体として統一感がなく、住む本人も「なんだか落ち着かない」とおっしゃっていました。
“こだわり疲れ”にならないためにも、設計段階で方向性をしっかり整理することが大切です。


まとめ:「全部じゃなくても」理想の家はつくれる

総合建築アドバイザーとして伝えたいのは、家づくりにおいては「全部オシャレ」である必要はないということです。むしろ、どこにこだわるかを明確にして、その部分で120点を取ることが、暮らしの満足度を上げる近道です。

そしてその判断を、施主とハウスビルダーが共に共有しながら進めていくことで、「自分たちらしい、ちょうどいい家」にたどり着くことができると思っています。


この考え方を取り入れて、ぜひ皆さんの家づくりがより豊かで、心地よいものになることを願っています。
ご相談はいつでもお気軽にどうぞ。家づくりの“迷いどころ”に、現実と理想をつなぐ視点からアドバイスさせていただきます。


 

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