2025年3月28日金曜日

職人から見た家づくりのホンネ 第3回:宿泊施設の資産価値を上げる「枯山水の庭」の力とは




こんにちは、「大工のおっちゃん工房」です。
私は大工として40年以上現場に立ちつづけながら、一級建築士として住宅や宿泊施設の設計にも携わってきました。

この数年、旅館業や民泊運営に関わる方から「小規模な庭でも印象を良くしたい」というご相談を受ける機会が増えてきました。
とくに、外構や庭づくりを“宿のブランディング”や“資産価値”の一部と捉える方が増えてきたことを実感しています。

今回は、限られた敷地でも日本らしさを演出できる“枯山水”の魅力と、収益性・価値向上の視点から見た外構の意義について、
現場を知る職人目線からお話ししたいと思います。


宿泊施設の「仕上がり」は庭で決まる

民泊や簡易宿所を運営されている方と話していると、
「建物自体は整ったが、外構は後回しにしてしまった」という声をよく耳にします。

けれど、実際に宿泊客が到着して最初に目にするのは、玄関アプローチや外まわりの景色です。
そして、滞在中にふと目をやるのも、窓の外やウッドデッキの先にある“庭の表情”だったりします。

つまり、庭や外構は「宿泊体験の最後のひと押し」になる要素であり、リピートや口コミに直結する部分なんです。

資産運用の観点から見ても、「外構の整備=投資効果が見えにくい」と思われがちですが、
近年では「宿泊単価を上げる空間演出として、庭が重要視されている」という流れがはっきり出てきています。


枯山水が選ばれる理由:「省メンテナンス × 高演出性」

小規模な宿や都市型の民泊では、「スペースがない」「水を使うのが難しい」という事情も多くあります。
そうした中で注目されているのが、水を使わずに山水の風景を表現できる“枯山水”です。

枯山水の魅力は以下のような点に集約されます:

  • 維持費が抑えられる(水を使わない・植物の管理が少ない)

  • 限られた面積でも成立する(1〜2坪でも印象的)

  • 和の空間として海外客に評価されやすい(文化的価値が高い)

  • 室内からの“借景”としても映える(窓越しでも体験価値がある)

このように、コスト効率と空間演出のバランスが極めて優れているのが、枯山水の最大の強みです。

たとえば、宿泊単価8,000円前後の施設であっても、枯山水の設えがあることで「特別感」が演出でき、客単価を10〜20%上げられる可能性があると感じています。


見せるだけでなく、「記憶に残る体験」になる空間

収益物件として宿泊施設を運営する場合、「稼働率」と「単価」が利益の鍵になります。
その中で、差別化された体験価値を生む空間づくりは、競合と差をつけるための有効な手段です。

ある民泊オーナー様の事例では、わずか1坪程度の枯山水を設けたことで、
「日本らしさが感じられる」「チェックアウト前に庭を眺めてリラックスできた」などの口コミが増え、
Googleのレビュー評価が上昇し、検索順位や集客力にも影響が出たそうです。

これはまさに、「見せるための庭」ではなく、“心に残る体験の場”としての庭が、
宿のブランドや経営成果に結びついている好例といえるでしょう。


施工視点から見る「枯山水は合理的な庭」

現場目線で見ると、枯山水には非常に合理的な側面があります。

  • 水道・排水の設備が不要

  • 施工面積が小さくても成立する

  • 天候の影響を受けにくい(雨で汚れにくく、劣化も遅い)

  • 施工期間が短く済む

  • ランニングコストがかかりにくい

また、庭園としての施工が必要な場合でも、既存のスペースを活用しながらデザインできる柔軟性があるため、
建物とのバランスや周囲の環境に合わせた対応が可能です。

つまり、「初期投資に見合ったリターンが見込める空間演出」として、
コストパフォーマンスに優れた資産価値の創出につながると考えています。


まとめ:「空間の質」は、数字にも反映される

不動産投資や宿泊施設運営において、数字で測れる価値は非常に大切です。
でも、それを生み出すのは、宿泊者の「心地よさ」や「印象深さ」といった測りにくい価値だったりします。

枯山水の庭は、まさにその“目には見えにくい差別化”を実現できる空間です。
限られたスペースでも設置可能で、施工後の維持も容易。
それでいて、「この宿、よかったな」と思ってもらえる力を持っています。


(筆者のひとこと)

私は一級建築士として設計図を描き、大工として現場にも立ってきましたが、
どんなに立派な建物でも、庭や外構が整っていないと“仕上がっていない”と感じてしまうんです。

特に宿泊施設では、枯山水のようなシンプルで静かな空間が、
一番“記憶に残る場所”になったりします。
外構はコストではなく、空間全体の価値を底上げする「投資」として、もっと見直されるべきだと感じています。


 

住宅リフォームの境界線 /確認申請の規模か違うか?―大工建築士の視点から―




住宅リフォームと一言で言っても、その工事の規模や内容には幅があります。
ちょっとした修理からフルリノベーションまで、実際に現場で手を動かしていると、「これは大規模修繕に入るのか?」「確認申請が必要か?」と、線引きに迷うことも少なくありません。

今回は、大工であり設計の立場も持つ私なりに、住宅リフォーム工事の分類とその境界線について整理してみたいと思います。


1|日常的な「小規模修繕」

まず、一番身近な工事といえば、いわゆる「小修繕」。

・水栓の取り替え
・クロスの貼り替え
・一部の床材張替え
・網戸の交換

といったように、生活にすぐ直結するけれど、建物全体の性能や構造には影響しない範囲の工事です。
このあたりは施主さん自身がDIYでやることもあるくらいで、確認申請も不要。当然、建築基準法上の「大規模修繕」には当たりません。


2|ちょっと踏み込んだ「中規模改修」

続いて、設備の入れ替えや内装のリニューアルなどを含む中規模のリフォーム。

・キッチンや浴室の入れ替え
・間仕切りの変更
・断熱材の追加
・外壁の一部塗装や屋根の張り替え

などがこのあたり。
現場感覚で言えば、「足場が必要になるか」「職人が複数入るかどうか」がひとつの目安です。

このレベルになると、構造部に手を加えない限り、確認申請は不要であることが多いです。補助金も活用しやすく、「省エネ」「バリアフリー」などテーマを持ったリフォームもここに分類されます。


3|工事が生活に及ぶ「フルリノベーション」

では、フルリノベとなるとどうでしょうか。

・間取りの一新
・屋根・外壁の全面改修
・耐震補強や基礎の補修
・給排水管・電気配線の総入れ替え
・断熱改修と設備の一新

ここまでくると、居住しながらの工事はほぼ不可能ですし、仮住まいの手配も必要になるケースが多くなります。

個人的な感覚としては、「現地調査したときに“これはほぼ建て替えに近い”と思える工事」が、このレベルです。

この段階では、確認申請が必要になることが多く、場合によっては「大規模の修繕」または「大規模の模様替え」に該当してくる可能性があります。


4|「大規模修繕工事」の定義とは?

ここで整理しておきたいのが、建築基準法上の「大規模の修繕・模様替え」の定義。

主要構造部に手を加える工事が“過半に及ぶ”場合は、たとえ元の構造のままでも「大規模修繕」とされ、確認申請の対象になります。
逆に、たとえ工事費が高額でも、構造に触れず、意匠や設備の更新であれば「大規模修繕」には当たりません。

これがややこしいところ。
施主さんから見れば「全部やってるんだから大規模でしょ」と思われる工事でも、構造に触れてなければ申請不要だったりします。
一方で、ちょっとした耐震補強でも構造部に広範囲に手を加えれば「申請必要」になることも。


5|補助金工事は“大規模修繕”ではない

最近多いのが「補助金を活用した断熱・省エネリフォーム」。

この種の工事は、たとえ補助金対象であっても、「大規模修繕」に該当することはほとんどありません。
あくまで工事の内容と範囲が建築基準法に引っかかるかどうかが判断基準だからです。

補助金申請の書類と、確認申請の書類はまったく別物だというのも、意外と施主さんに理解されにくい部分です。


6|最後に:現場での線引きは「感覚+法知識」

最終的に、「これは申請が必要か?」「どの規模にあたるのか?」という判断は、設計者の法的な知識と、現場サイドの感覚の両方が必要です。

私自身、設計事務所に所属していた頃は法解釈の方を重視しがちでしたが、実際に大工として現場に入るようになってからは、「現場の負担」「住まい手の生活」も含めて判断するようになりました。

施主さんにとっては、申請の有無よりも「安心して住めるかどうか」が第一。
だからこそ、「どの工事がどこまでの手続きを伴うのか」をしっかり説明できる職人・設計者でありたいなと思っています。


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